目に見えない被災のかたち
道路や建物の破損は少なく、
水も出るし、電気も通っている。
しかし、静かに精神と行動が拘束されている。
福島のいくつかの街には、そういう被害があります。
原発のニュースがあるたびに、
なにかの数字が発表され、
見えないなにかが衰弱していく。
映像になりにくい被災のかたちが、あるようです。
友人の家の小学生の子どもは、
高いマンションの部屋にひとりでいるときに、
あの時間を過ごしたのだそうです。
そのときのことは、
質問もされたくない、らしいです。
よほどの恐怖があったのでしょう。
ミルクを溶く水の心配をせねばならないおかあさんも、
黙々とつくった野菜を処分する農家の方々も、
恐る恐る看板の照明をつける商店の人たちも、
紙が入手できなくて印刷できない雑誌社の人たちも、
それぞれに震災の痛手を被っています。
いまの厳しい状況を、人体に喩えるならば‥‥。
大怪我をした人が、快方するための元気が必要なのに、
もっと精神やら内臓やらまでも、やられているらしく、
なかなか立ち上がりにくくなっているような感じです。
目に見える被災のかたちと、
見えない被災のかたち、
両方を乗越えるのが、ぼくらの目的だと思います。
糸井重里
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